先月下旬から、北京五輪の聖火リレー騒動、胡錦濤首席の来日とパンダの貸与など、中国の話題でメディアはにぎわったが、今度は、四川省での大規模地震が起きた。
被災地では、未だに瓦礫の下に閉じ込められている多数の被災者がいるが、救出はなかなか進まず、その死者行方不明者の数はどんどん増えていく。
学校や病院などの公共施設が潰れ、子や友人、同僚の名を必死で呼んでいる人たちや、未だ救出されず瓦礫の下にいる母を思って泣き叫んでいる女性など、TV画面で見るだけでも、とても痛ましい。
すでに、救助打ち切りとなった地域もあり、あきらめ切れない親たちが、子どもたちの姿を求めて、警官に追われても、警官の姿が見えなくなると集まっては学校の瓦礫を取り除いているという。
そこにわが子がいるのに、助け出してやれない親の心情はいかばかりかと思う。
東京も、近い将来に大規模地震の不安があるので、決して人事ではない。

今まで、義捐金や物資の支援は受けるが、外国の救援隊などの人的支援は断っていた中国も、あまりの悲惨な現状にやっと自分たちだけでは無理と気がついたのか、国際的な批判をかわすためか、日本との関係を慮ってなのかはわからないが、やっと要請があって、消防庁のハイパーレスキューなどを含む災害救助のエキスパートからなる国際緊急援助隊が中国へ入った。
しかし、なぜか本来の救助より、昼夜歩き詰めでの長距離の移動の方が多く、中国側に振り回されているように思われる。
そんな中、ロシアの救助隊が生存者を救出したというニュースが伝わってくると、ロシア(中国共産党の生みの親であり、かつての宗主国)に花を持たせるために、日本は生存者の見込みのないところをあちこち移動させられているのではないかと勘繰りたくなる。
中国は「ナショナリズム」を一枚看板にして国民を洗脳し、またこの大地震も、当初それで乗り切ろうとしたが、そんなことだけで大災害を乗り切ることはできない。

ナショナリズム研究で知られるベネディクト・アンダーソン(アメリカの政治学者)は、著書の「想像の共同体」でナショナリズムについて“自然の愛郷心ではなく、巧妙に作られたもの”で、政治などに利用されやすいので警戒しなければいけないとしている。
聖火リレーのフランスでの騒動を口実に、中国国内でのフランスのスーパー「カルフール」へ不買運動や抗議デモ、大型トラックによる入口の封鎖などが各地で起きた。
しかし、自然発生のデモにしては、すでに立派な横断幕が出来ていたことや、大型トラックを複数台も用意するなど、裏での政府の関与が囁かれている。
また、そのデモに毛沢東の肖像をかかげている者もいて、本当にあきれるばかりだ。

十数年前、ユン・チアン氏(イギリス在住)の満州生まれの祖母、母と、四川省生まれの彼女自身の女三代にわたる自伝的小説「ワイルド・スワン」を読み、共産党の内幕や文化大革命の愚行、毛沢東の権力欲と残酷さ、共産主義の中の出身による階級と差別、党幹部とその家族の特権や不正、農民の悲惨な状況などを知った。
毛沢東は、自らの野望のために中国を恐怖で支配し、その27年の間に、平時において7,000万人をはるかに超える自国民を殺したのである。
また、膨大な資料と多くの証言からなる彼女の渾身の著書「マオ 誰も知らなかった毛沢東」によると、それは、農民に対する食糧の搾取と、さらに大規模で巧妙な食糧の搾取による大量の餓死(食糧増産計画=各地の責任者を競わせて膨大な水増し生産目標を掲げさせ、それによって国が拠出量を決めて、農民から暴力的に搾取する。その穀物によって出来るアルコール燃料で原子力計画を実行。一回のミサイルテストで100万〜200万人の年間食糧摂取量を消費)、批判者の処刑(百花斉放の罠=自由にものを言わせて、それを根拠に逮捕・監禁・拷問・処刑)、知識人への弾圧粛清、そして極めつけは文化大革命による大粛清と文化の破壊である。
この著作を読んでいると、毛沢東は、まるで中国の歴史書に出てくる悪逆非道の皇帝、例えば殷の肘王や秦の始皇帝のようであり、現代での出来事とは到底理解しがたく、そら恐ろしい。
それは、朝鮮戦争を自ら画策し、兵を大量に使い捨てることが目的の人海戦術を取って、自国民を300万人(前述の7,000万人には入っていない)から戦死させたり、農民を生きていけないほど搾取したり、大規模な土木工事をお金も機材もかけずに人海戦術で行うため、多くの農民を狩り出して、しかも手弁当、工具と寝るところも自前で行わせる。
知識人の粛清や文物の破壊や、諫言するものは容赦なく殺す、他民族に対する残虐極まりない行為など、人の死には無頓着だが自分の健康や長寿には気を遣うなど、多くの点で類似している。

前述のベネディクト・アンダーソンは“中国では、毛沢東がスターリンと皇帝の業績を手本として、大胆にも清帝国の基盤の上に社会主義を形成しようとした。しかも毛沢東は、新しい多民族、多宗教、多言語の広大な地域に対して、ナショナリズムという寸足らずで薄っぺらな皮を、無理やり引っ張ってかぶせようとしたが、それは無謀な試みであった。”と述べている。
これらの事実を知らないのは、もしかしたら一番被害を蒙った中国の国民であろう。
毛沢東の最大の守護者で恐怖政治の支援者でもあったスターリンは、死後、フルシチョフのスターリン批判によって世界に自身の恐怖政治が暴露された。
毛沢東は1976年に亡くなり、それ以後、西側へ出た人たちからの様々な書物によって、少しずつ真実は表に出されてはきたが、30年を過ぎても、為政者によって毛沢東の真実が明るみに出されることはない。
未だに若者たちは、毛沢東のプロパガンダを信じてチベットを中国の一部と見ているし、チベットの民を奴隷から解放したなどと信じている。

今回の四川大地震で、400近いダムに崩壊の危険があるという。
そのダムを作ったのは、貧しい多くの農民たちが、食べる物も無く、ろくな工具も無い中で、汗と涙で作ったダムではなかったのか。