2008.02.13 白い鳥

まだうっすらと霞がかった空の、その霞の上の高い青空を鳶が一羽ゆっくりと旋回していた。
私は、それを眺めながら心の中で鳶に呼びかける。
『私が見えたら、こっちへ飛んできて』、するとゆっくり輪を描きながら、こちらへ近づいてくるような気がする。
しばらく旋回して、悠々と北の空へ飛んで行った鳶をしばらく眺めていた。

天気のよい日は、いつも洗濯物を干しながら空を見上げて、気に入った雲を見つけるのが私のささやかな楽しみだ。
その時に、たまたま空高く飛び大きな鳥を見つけると、何かの吉兆ではないかと思ってしまう。
大きな鳥とはいっても、我が家の辺りでは殆どが鳶(タカ科)で、ごく稀にチョウゲンボウ(ハヤブサ科)を見かける。
なぜ鳶とチョウゲンボウの見分けがつくかというと、鳶は殆ど羽ばたかずに悠々と空を舞っている。
チョウゲンボウは、下から見上げた時に羽が黄色で黒褐色の模様が見える。
私は基本的に鳥が好きではない。
その理由は、頭上を飛ばれるのが嫌なのである。
しかし、雀や鳩やカラスと違って空の高いところを飛んでいる鳥は、自分とは違う別世界
のものとして、一種の畏敬の念を抱いてしまう。

もう十年近く前になるが、あるトラブルに巻き込まれ、悪意や誹謗中傷などの電話や様々な事があって、卑怯下劣な人間に対し名誉毀損で戦うべきか、同じ土俵に乗ったらこちらも穢れるので相手にせずにいるべきか、毎日毎日非常に悩んでいた時期があった。
その日も屋上で洗濯物を干していたのだが、空など見上げる事もなくその事を悩みながらいると、目の端に白いものが映った。
はっとして見ると、右手の3メートルくらい先の手すりのすぐ近くを真っ白な大きな鳥が北西から南東の方向へ飛んでいる。
それは、私の目の高さと殆ど同じで、『あっ鳥だ!』と思った瞬間、その鳥がUターンをして鋭い目をぎょろりと回して私の方を見た。
そして、すぐペントハウスの陰に隠れてしまった。
私は一瞬その鋭い目に射すくめられたが、すぐ鳥を追いかけてペントハウスの反対側へまわった。
しかし、その時にはどこへ行ったのかもう姿が見えなかった。
この鳥は何であったか、今でもわからない。
川が近いので時々河原ではユリカモメを見るようだが、ユリカモメではない。
カモメは大きいけれど、翼の先に黒い色がついていて、私の見た鳥はとは違う。
しかも、川は南の方向にあるが、この鳥は住宅地の北西からやってきて北西へ飛んでいった。
大きなマンションや3階建てや4階建てのビルの間を抜けて、地上から7〜8メートルの高さを大きな鳥が飛ぶのも不思議だった。

その時から、私は憑き物が落ちたように悩む事をやめた。
下劣な人間が何を言おうと相手にしないことにした。
結果として、それが私自身にとっても、対外的にもプラスの方向に向かった。
今でも、あの鳥の姿と鋭い目は忘れられない。

あれから私は、空の高いところを飛ぶ大きな鳥を見つけると、何かの前触れや決断の時ではないかと思うようになった。